訪れた時
2017年10月16日 10時00分
訪れる場所
ホトリニテ
山梨県・山中湖のほとりに佇む、全13室の小さな宿「ホトリニテ」。祖父の代からの保養所を受け継ぎ、当時のままの古き良き雰囲気と懐かしさを感じる温かみが随所に残る。そんな居心地の良さを大切にしている三代目宿主・高村直喜さんが考える“ホスピタリティ”の極意とは、思いもつかない意外なものだった。

毎週月曜が定休日。宿なのに休みがあることを不思議に思ったが、それは宿主の高村さんがたった一人で切り盛りするための調整日なのだという。ゆっくり体を休めるのかと思いきや、平日と変わらず朝から働き続けていた。

朝六時起床。朝食をとったらすぐに掃除を始める。十時、お客さんがチェックアウトすると高村さんの動きは俄然早くなる。全十三室の客室をすべて掃除するためだ。掃除道具を持って客室へ。窓を全開にし、座布団と座卓を上げ、シーツを外して布団を畳む。畳を二度拭きし、座卓を拭く。その一連の動きは流れるように美しく、まるで踊っているかのよう。一年中半袖姿なのも、ずっと動き続けているからだとか。

「無駄のない動きって美しいじゃないですか。掃除も意識することで見え方が違いますから」

さらに驚いたのは、障子の桟を一本ずつ筆で払って埃を落とし、姿見の引き出しもすべて開け、押し入れの扉も外したことだった。極めつけは“秘密兵器”だという送風機で舞った埃を窓の外に吹き飛ばしたこと! 「これを使って客室の掃除をしている人ってあんまりいないと思います」と高村さんは笑う。それによって部屋の空気ががらりと変わるのだそうだ。


高村さんがここまで掃除にこだわるのは、きちんとした理由がある。

「空気にも賞味期限があるんです。必ず一日経ったらすべての空気を入れ替えます。使わなかった部屋も全部。宿にとって空気を整えることが一番大事なんだということがわかったんです」

だからなのだろう。宿に入った瞬間、感じたのは“こざっぱりとした清潔感”だった。建物も備品も布団までもが保養所時代のまま。決して新しくはないけれど、古い建物特有の“匂い”が一切しないのが不思議でもあった。古いのに新しい、そんな“空気感”さえ漂っていたのだ。

高村さんが掴んだ“掃除道”ともいうべき精神は、確実にお客さんにも伝わっているようだ。
「お客さんの反応が違いますね。『気持ちがいいから裸足で歩きたくなるね』と言ってくださる方もいます。宿を始めた時は見えるところをさっと掃除する程度で、空気のことなんてまったく考えていませんでした。けれど、世界一だといわれる旅館に泊まりに行ったら空気そのものが違った。それは掃除が作り出しているんだということに気がついたんです」

目に見える綺麗さだけでなく、目に見えないものをこそ整える。それは言葉やサービスを超えた“ホスピタリティ”そのものだった。


午後四時。すべての掃除が終わる。本当ならばお客さんがチェックインし始める時間だが、定休日は少し休むことができるのだという。縁側に座り、外を眺めてほっと一息つく。足を崩さず、正座なのが高村さんらしい。

「本当はもっとこういう時間が必要ですよね。慌ただしくしていると見過ごしてしまうことも、お客さんの立場になって感じられますから」

そう話しながら、お茶を一口。いつもは立ちながらお茶を飲むことも多いそうだが、この日は特別。動から静へ。ゆっくり力を抜いて心を鎮める。そのための空間をしつらえる。高村さんが求めてやまない“時間”が、そこにあった。

PROFILE

ホトリニテ

山梨県南都留郡山中湖村山中1464

Tel.0555-62-0548

hotorinite@gmail.com

電話での予約・問い合わせは、9:00~22:00まで

http://hotorinite.com/

トップへ戻る