訪れた時
2017年5月26日13時30分
訪れる場所
手打ちうどん とだ
甲斐善光寺の参道に位置する「手打ちうどん とだ」。開店と同時に、ひっきりなしにお客が訪れる繁盛店だ。老若男女問わず誰もが、その山盛りのうどんをぺろりと平らげてしまう。13時45分に暖簾を下げると、まかないの時間に。テレビを見ながら、お座敷でくつろぐ。それが変わらない、いつもの風景。

「同じ値段なら大盛りのほうがいいでしょ? ワンコインでおなかいっぱいになったらうれしいじゃんね」と店主の戸田豊さん。とだのうどんの特長は、なんといっても、そのボリューム。どんぶりからはみ出るほどのうどんの山に、茹でたキャベツ、甘辛く炊いた豚肉がたっぷりと乗っかった、肉うどん470円也。何とも豪快で気風がいい。

「うちのうどんは、肉が入ってはじめて完成するから、肉の味つけが一番大事。母ちゃんに煮てもらうんだけど、俺がダメ出しして、味が完成するまでに2〜3年かかったのよ」
時に厳しく、時に優しく。情にほだされ、教えを請われれば、作り方も惜しみなく教える。「何でも撮っていいよ。隠すもんなんて何にもねえから」と、厨房にも招き入れてくれた。そのきっぱりとした潔さに、うどん作りの自信を感じる。


今から17年前、豊さんが働き盛りだった42歳の時、突然会社を辞め、うどん屋を始めようと思い立った。もともとラーメンを作るのが好きで、子どもたちにも大好評だったという腕前の持ち主。ラーメン党だった豊さんが、うどんのおいしさに開眼したきっかけは、当時、甲府市内にあった「こだち」の肉うどんだった。
週2,3回ほど通い詰め、次第に店主と親しくなり、「おまえはうどん屋に向いている」と言われるほどのめり込んでいった。「退職したらやろうかな」程度にしか、その時は考えていなかったが、次第に仕事の先行きに不安を感じ、辞めようと決心。けれど、仕事仲間や家族からは、もちろん猛反対。

「どうしようもなくてお袋に相談したら、○○神社の宮司さんに『聞いて来い』って言うわけだ。それで行ってみたら、宮司さんがお祈りした後、こう言ったんだ。『(うどん屋を)しなさい』って」

神様だけが、豊さんの背中を押してくれた。

作り方は、「こだち」に通っているうちに、見よう見まねで覚えた。つゆもうどんもいつのまにか作れるようになっていた。開店当初はあまり量が作れず、すぐに売り切れてしまって、早く行かないと食べられない店として、いつしか知られるように。その見た目のインパクトとうどんのおいしさもあって話題となり、以来、お客さんが途絶えることはない。
「なんかね、全部がうまく行っちゃって」と豊さんは笑う。こうなることはきっと、神のみぞ知っていたことなのだろう。
 
13時45分。スタッフ4人で毎日、まかないにうどんを食べる。この日、豊さんはモツ煮込みが乗った特製うどん、奥さんの仁子さんは肉ねぎつけうどん、スタッフのさゆりさんはお気に入りの肉天わかめうどん、ゆみさんは夏限定の冷やしうどんを食べていた。まかないでうどんを食べるのは、「とだ」の味を確認するためでもあり、仕事終わりにみんなでゆっくり過ごす大事な時間。
 
食卓にあった南部鉄器の素敵な急須は、子どもたちから仁子さんへ送られた母の日のプレゼント。「うちの子どもたちはね、三姉妹なのよ」。そう言って豊さんはうれしそうに、お茶をごくりと飲み干した。うどん職人の顔から父親の顔に変わった瞬間だった。

甲府の街にあわせた、吉田のうどん

富士吉田市発祥の「吉田のうどん」を甲府の人々が好む味にアレンジ。桜肉を豚肉に変え、味噌を多めにした濃いめの味つけ。歯ごたえ抜群のうどんに煮干しベースの濃いつゆがよくからむ。豚肉と天ぷら、わかめと茹でキャベツの食感が小気味いい「肉天わかめうどん」が一番人気。どんぶりからあふれる圧巻のボリュームは豊さんの優しさ。

INFO

手打ちうどん とだ

甲府市善光寺3-30-1

11時30分〜13時45分

11時30分〜14時00分 / 18時00分〜20時00分(土日)

月曜定休

取材・文:薮下 佳代 写真:志鎌 康平

トップへ戻る